South China Sea News/*
October 1999
Oct 31
■日本からは無事帰ってきたのですが、直後にちょー大型暴風雨(比喩)が生活全般に吹き荒れ、目下も戒厳令施行中(比喩)で更新が遅れておりました。またぼちぼち書いてまいりますので、おひまな方はおつきあいください。
■日本は思っていたより日差しが強く、香港よりもずっと辛口の秋晴れでした。今回の御馳走はお刺身に京懐石、鍋と各地のお酒、コンビニの梅のおにぎり(日本に帰ったら必須)、お醤油味の固焼き煎餅と母が作った南瓜の煮物。帰港翌日は会社の「Shang-hai crab party」とやらで、どうやら毎年この季節に行うことにしたらしく、今年も上海蟹にありつくことができました。この蟹は味噌が命です。こってりきゅうっと口に溶ける独特の旨味は最高です。今年も紹興酒を甲羅に零していただきました。美味也。
■日本滞在中に自分で買ったり実家で発掘したり頂いたりして、また少し新旧とりまぜ本を仕入れてきました。以下書名メモ。
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賢者の石(コリン・ウィルソン/創元推理文庫)
罪喰い(赤江瀑/講談社文庫)
花曝れ首(赤江瀑/講談社文庫)
中世騎士物語(ブルフィンチ/岩波文庫)
隼別王子の叛乱(田辺聖子/中公文庫)
ヨーロッパ中世の宇宙観(阿部謹也/講談社学術文庫)
私、プロレスの味方です(村松友視/角川文庫)
当然、プロレスの味方です(村松友視/角川文庫)
ダーティ・ヒロイズム宣言(村松友視/角川文庫)
聖い夜の中で(仁木悦子/光文社文庫)
ゆきなだれ(泡坂妻夫/文春文庫)
梅安料理ごよみ(池波正太郎/講談社文庫)
機巧館のかぞえ唄(はやみねかおる/講談社青い鳥文庫)
ニッポニア・ニッポン(杉浦日向子/ちくま文庫)
合葬(杉浦日向子/ちくま文庫)
知恵の樹(ウンベルト・マトゥラーナ&フランシスコ・バレーラ/ちくま学芸文庫)
戦中派天才老人・山田風太郎(関川夏央/ちくま文庫)
世界史の誕生<モンゴルの発展と伝統>(岡田英弘/ちくま文庫)
成吉思汗の後宮(小栗虫太郎/講談社大衆文学館文庫)
海鰻荘奇談(香山滋/講談社大衆文学館文庫)
中華民国<賢人支配の善政主義>(横山宏章/中公新書)
テクストの快楽(ロラン・バルト/みすず書房)
マンガ囲碁入門(白江治彦/高橋書店)
コミックでおぼえる囲碁(NHK出版)
入神(竹本健治/南雲堂)
新・知の技法(東京大学出版会)
知の論理(東京大学出版会)
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重かった。
■赤江瀑の二冊は随分昔にもらったもの。おぼろな記憶をたどるに、どうやら恐れ多くも「あなた(=私)の書く文章はこのひとの文章の感じに似ている」と言われたような気がするんですが、それが本当だったとすると今や俺はかなり萎んでいます、枯れたのではなく萎びてしまったのです。そして仮に元にもどるためには何が要るのかとうつろに求むるに、もちろん蜜です。蜜。滋養。甘露。若い男の子や女の子の素敵なところからしぼって飲むのですよもちろん。いっそ何十人と。あんなのが部屋にうじゃうじゃしてることを想像したらもう(以下自主削除)
■自分はforeignerであると感じることと、周囲をforeign placeであると感じることの相異を綺麗に喩えてくれる例が欲しい。foreignなものを内部であれ外部であれ無意識に過剰に(ここ重要)意識しているのだとしたらとても疲れる。そして同時に狭間にいるいやらしさを満喫する、それは確かに幸せのひとつであるかもしれないが、俺は要らん。
■日が暮れてから成田を飛び立ってすぐ、まだベルト着用のサインが消えないでいるあいだ、機体が雲を抜けてのぼった先には月が晧晧とその雲原を照らしているのでした。雲原はこんな風に鳥より上を飛ぶものにしか見せない色、墨を刷いた上に何か蜘蛛の巣ほどにしか粘らないけれど霧なら止まらしむる程度の甘い網を一面に被って、むったりとわいて出たまま地球を包んでおりました。月読の光は銀色であるとよく言いますが、それは銀よりもっと鈍く、内側に柔らかく染みてゆく肉感的な毒の光でありました。

Oct 16
■唐突ですが日本に一時帰国するためしばしおやすみします。再開は早くて10月25日の夜ごろかなと思います。
■二晩徹夜で仕事を片付けそのまま飛行機に乗るのはもうやめたい(泣)間に合うのかたのむUA俺を乗せずに飛ぶなー(以下次号)

Oct 11
■今住んでいるところは古いマンション団地で、どこもそうであるように一階のエントランスに掲示板がある。貼りつけてあるのは自治会(各戸ごとに異なる「業主」=大家さんをまとめる組織)からの会議報告、管理組合の会計報告、慰老イベントの案内(うちのまわりはやたらと爺さま婆さまが多い。古い街だからか)、防災や衛生上の注意を呼びかける地味なお知らせばかりだが、その隣にこれまた地味なポスターを見つけた。地面にうつぶせに倒れた男性の頭から血が流れ、男性の霊が泣きながら身体からさまよい出ているしょぼくれた絵が描いてある。中途半端に太いゴチック体で印刷されたキャッチは「高いところからものを投げ捨てないでください」。よく見ると男性の頭にはクーラーの室外機がぶつかり転がっている。その割りに出血が少ないな、なんて冷静に眺めてみたり。
■香港ではかなり多くの公共announcementをテレビで流す。パスポート申請の締切日、就学適齢児童を持つ親への登録案内、過度の騒音による難聴障害防止の呼びかけ、高層建築現場従事者監督者へのライフベルト着用勧告、CDや映画VCDの違法海賊版禁止キャンペーン、青少年の麻薬汚染防止キャンペーンなどなど。後者三篇あたりは役者やセットを使い演出もちゃんとしたフィルムになっていて(「麻薬防止」篇は、どんどん深みにはまり青白く痩せこけていく若者と血まみれの注射針などネガティブ映像てんこ盛りで、最後は更正できず死んでゆくシーンで終わる)、日本のお役所もこういうのを作ればいいのにといつも思うのだが、ともあれそういった政府のキャンペーンフィルムで忘れられないものがひとつある。「落ちてくる単3乾電池」だ。
■そこでは何も起きない。ただ、フィルムの最初からずっと、自然落下速度で落ちてゆくひとつの単3乾電池を真横から映している。カットバックで楽しそうにはしゃいでいる幼児が映る。カットバック。落ちる乾電池。風の音。カットバック。笑っている幼児。カットバック。落ちていく乾電池。幼児。音。電池。幼児。電池。何か鋭い音。終わり。
■実際にはよほどのことがないかぎりさすがにそんなものを投げ捨てるひとはいないはずだが、しかしたとえ上空100メートルから落下してぶつかっても平気そうなものは逆によく落ちている。紙製品が多い。あれとかあれとか、たまに紙じゃないあれとか。
■なので香港で団地の敷地内を歩くひとは頭上に気をつけましょう。ってここまで書いてふと思ったけどこのネタ前にも書いたことがあるような。まあいいか。
■「恋愛のディスクール」漸く読了。この本を読むことができてよかった。

Oct 10
■韓国産原材料値上げと円高さまのおかげで、身動きが取れないと云うか身動きすると書類の山が!山が崩れる!神よー!な状態に。こんなことでちゃんと来週日本に帰れるのでしょうか俺さま大ピンチいや問題はそれだけじゃないんだけど以下次号。返却や送付をお約束している皆さんには何卒しばしのご猶予を賜わりたく。
■されど逃亡。本と睡眠に。日本書籍古本屋さんで「江戸艶本を読む」(林美一/新潮文庫)「間抜けの実在に関する文献」(内田百間←「門に月」の字が出ないのは有名/福武文庫)「写楽 仮名の悲劇」(梅原猛/新潮文庫)「ベートーヴェンな憂鬱症」(森雅裕/講談社文庫)を買う。昼間出歩いたら猛暑(まだまだ30度近い)の戻りにやられて、勢いビールを飲んだら夕方から夜まで寝入る。基本ですよねこーゆう暮らし。
▼杉並北尾堂の在庫目録をぼーっと眺めていて(欲しかった「ブロンソンならこういうね」はさっそく売り切れてしまった)、別役実の著作に目が止まる。劇作家として有名な人だが、僕はこの人の名前を見ると脊髄反射的に子供の頃読んだ一冊の本を思いだす。別役実は童話作家でもあるのだ。その本はたしか小学2年か3年の頃に一度読んだきりで、あらすじはもう忘れてしまったが、読後感は今もはっきり思い出せる。なんと云うか、暗い霧が立ちこめた(しかし恐ろしくはない)空間をずっとずっと漂ってゆくのだ。もう帰れない、帰ろうと思ってももう取り戻せない(何を取り戻せないのかももうわからない)、やわらかくきしむさみしい闇が芒洋と続く空間に溶けてゆく。哀しく小さく狂った感じ。系統はまったく異なるが、天沢退二郎の「光車」や「オレンジ党」シリーズが孕むどす黒く冷えた何かとどこかでオーバーラップして、その霧は僕のおつむの古い階層に染み着いている。ちなみに同じ別役実の「そよそよ族伝説」シリーズ、これも非常に好きな作品だ。自分の居所が自分でわからなくなっていく薄闇系ダークファンタジーが好きな方にはおすすめします。
■さて思い立って検索してみると、その本の出版社は「三一書房」であることがわかった。何か情報でもないかと「三一書房」のサイトを探して見つけたのが▼三一書房労働組合。本の情報どころか、どうやら会社そのものが凄いことになっているようだ。資本(←この用語…)側が会社を閉めようとしているのに断固反対してモメている最中で、労組は給料未払いのまま会社を「維持」しているらしい。出版業界には疎いのでこんなことがしょっちゅう起きているのかどうか定かには知らないが、それにしてもこの熱いページに螺鈿細工の如くちりばめられた労働争議用語の数々を見よ。「ロックアウト」!「不当労働行為」!大学時代に習って以来、初めて本当に使っている人達を見ましたよぅ。不謹慎かも知れないがある意味感動。
■で、この労組サイトではちゃんと本の販売も行っているのである。書籍目録を見ると、いささか地味な、部落解放系とか労働運動系、あるいはノンフィクション系の本が連なるなかで、文芸資料や文化民俗関連の資料全集もあり、久生十蘭や夢野久作の著作集などもあり、戦後まもなく生まれた老舗書房らしいラインナップ。でも、幼い僕が読んだあの本は見当たらなかった。
■本の名前は『黒い郵便船』といいます。『淋しいおさかな』や『山猫理髪店』などと一緒に、別役実童話集としてまとめられた中の一冊です。もしどこかの児童図書館で見かけることがあったらガメて送ってください読んであらすじを教えてください。
■おまけの電網漂流メモ:▼普及版『歴史概論』ゆにーくなれきしのおべんきょうに。

Oct 7
■まったく難しいタイトルばかりでろくに読んだことがないくせに、なんとなくそこから出る本が好きでたまらない▼みすず書房。社員23名なのですね。出版社ってそういう規模の業界なんでしょうか。
にせんえんさつ。昔の500円札みたいにマイナーな紙幣なのかしら。でも気軽に2千円札を出されることが増えたら結局おつり対策で千円札が必要になるんでは、なんて素人は考えるが、浅はかですかそうですか。←この語尾最近はやってる?
■またしても台風が接近していたらしくシグナル3まで出たが、夕方にはシグナル1に戻っていた。夕刻は腐ったサーモン刺身色の空。少しだけ湿気が戻った。

Oct 6
▼なつめさんが初歩の初歩から囲碁を教えてくれる親切サイト▼playGO.toを日記で紹介してくださったので、いそいそ遊びにゆく。わーいなんだか面白そうですぞ。さっそくやってみよう!まずは50級から…あれ?碁盤が表示されないぞ?(←68Kマックのネスケ4.0はJava対応していない)…
■ということでこの秋は囲碁。囲碁ですよ。ええ。
■最近韓国製のポリ系原材料がキチ的高騰状態にあり、それらを輸入し成形加工する業者さんがひしめく中国華南地区各社が悲鳴を上げている。そういう会社から買い叩いて(うひ)世界中に売りつけているウチも連日対応会議中。あっちの買い掛けをこう値上げしてこっちの売り掛けは据え置いて、でもこの月になったらこっちを上げてそっちはそのまま、ついでにこれは半分に見積もって、さあいくら損?いくら得?ちょっと待て円は今いくら?じゃあこっちはこう変えとく?どうする?円買っとく?えー?…と、「おかしいぞウチはトレーダーじゃないんだメーカーなんだ」と社長以下首をかしげている。でもこういった素朴な「国際貿易」体験は面白い。
■夜半に家に帰っても、除湿機がまだ動いている(満杯になっていない)季節がやってきました。上海蟹が大行進上陸中です。

Oct 4
祝!ヘンテコ本専門オンライン古書店▼杉並北尾堂書店、いよいよオープン。誰もふりむかない奇書マニア必見。ライターの▼北尾さんが個人でこつこつ収集されたコレクションの目録は、眺めているだけでもにやにやどきどきします。おいらは300円コーナーの「ブロンソンならこう言うね」(ごま書房)が欲しいと思ったが、海外通販は受け付けてくれるのかな。
■唐突ですがもし小説家になれるなら、エロ小説家になってみたいです。とても難しそうです。言葉を紡いだ上に、砂糖や蜜やいろいろとアレなものを垂らしてあれこれ飾らないとなりません。お腹が空いたからといって自分で食べちゃおしまいだし、かなり大変そうです。でもなんだか面白そうです。
■それから囲碁がやってみたいです。将棋やチェスにもなんとなく憧れる(どれもよく知らない)んですが、あちらはどうも駒のキャラクターの強さというか、なにかドラマめいたものを素人ゆえに想像してしまい、やる前からその濃さにめげてしまっています。もちろん囲碁も、濃くも深くも果てしない勝負世界があり、たとえ白と黒の珠しか盤上にいなかろうと、負ければ素直に枯れていられるとも思えませんが。はて、ネットで囲碁を勉強出来るかな?
■香港で見る中国将棋の駒は丸くてとても大きくて、押して平たくした栗まんじゅうみたいです(上に文字が彫ってある)。紙に升目を書いただけの簡単な盤を地べたに置いて、茶のみじいちゃんたちが夕涼みがてらよく夜半まで興じています。ギャラリーもじいちゃんたちです。いい感じです。

Oct 3
■放射能漏れ事故の詳細を知るにつけ、つくづく恥ずかしい、なさけない国だと思う。いずれはこんな国に帰って暮らすのかトホホ。というのが初めの感想ですが、そう身勝手で傲慢なことを云ってはいけない。恥ずかしいのはたぶんごく一部のひとたちが属さねばならなかった機構が持つ「癖」、あるいはそのごく一部のひとたちのことをよく知らずにいる、私自身を含めた大人全員かもしれません。それにしても、事故発生以来ずっと読んでいた▼野尻ボードに「IAEAに、北朝鮮やイラクより先に日本を査察してもらったほうがいい」という意見が書き込まれていたけれど、是非にもそうしていただきたい。外から見たら日本はよほど“危険”な大国なのです。ほんとうに。
■ところであれは「ちぇれんこふこう」と読むのですか、それとも「ちぇれんこふひかり」と読むのですか。
■10月1日、北京で挙行された國慶節の軍事パレードをテレビで見る。この日のために半年あるいは一年も前から準備と練習に明け暮れてきたであろう精鋭部隊の、晴れの日の大行進。決してどんな軍備をも賛美するものではないが、ああまで文字どおり「一糸乱れぬ」行進を表現するに、語彙に窮する私は「美しい」という言葉しか浮かばない。特に五星紅旗を掲揚する際のこと、旗を手におさえて準備していた担当の兵士が、するすると上っていく旗の端を空に向かって勢いよく放った時の、舞うように延ばした腕の角度、爪の先までぴりりとそろえた指、視線を天に凝らした顎のあげ方、数秒そのままの姿勢で止まるマのタメ方などは、まさに京劇のミエに通じる非常に美的な何かがあったと思う。しかしながら、残るパレードに登場した花車はいかにも中国的センスの満艦飾、巨大で時にグロテスクですらあるナンセンスの大行列だった。巨大なはりぼての「1999」の文字からびょ〜んと上空に伸びた、これまたはりぼての飛行雲の先にこしらえられた飛行艇(斜陽の遊園地からもらってきた感じ)に乗っている男女ふたりは、満面の笑みを浮かべて花束を振っていたが、スタンバイ時点からずっとあそこに乗ったままだとしたら、まさに「同志們、辛苦了!」であった。このようなせっかくの大規模パレードも、北京市民はテレビで観るしかなかったようだ。そうなると、香港の大球場でささやかながら演習実例を行った駐港解放軍の方が、満場の呑気な観客から喝采をあびただけやりがいもあったと云うものだろう。
■それにしても香港の人民解放軍はいつもはどこにいるのか。もちろん駐屯地の敷地内のはずであるが、普段香港の街では絶対に見かけない。返還式典の時に陸続と国境を越えてやってきたっきり、煙になって消えてしまったようである。返還前は、それでもたまにジープで走りぬけるベレー帽な英国軍人を目撃したことがあったけれど。
■秋(まだ晩夏)の夜長の電網漂流。▼STATION T.T.B.さんの「今週のヤマト」。まままま松本メーターが3DCG化しちゃってます。特に第一艦橋がスゴイ。ちゃんと古代くんの座席に電影ゲージが、ってこれは基本中の基本か。はたして艦全体の完成は何年後になるのか。継続努力を祈ります。
■やれやれ10月になりました。誕生月です。10月に生まれたことは、なんとなく気に入っていますが、さて、残り半分の人生をどれくらい「削って」生きてゆけるか。削ってはいけない思い出がどれくらいあって、削ってもいい/削った方がいい関係や贅肉やガラクタがどれくらいあるか。削れかかっていて、急いで手当てして治さなければならないモノやコトも多いです。削ったカスで何か自分や他人様にとって面白いものでもこねくり出せればいと幸甚。
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